大地と空 日本で人気上昇中のロッククライミング

日本人は登山が好きだ。いつの時代でも、日本では山歩きがレジャーの一つとして人気が高かった。おそらくこれは、古神道の行者が山の頂で修行を行っていたことに由来するのではないかと思われる。
日本列島の約75パーセントは山地が占めている。あちこちにすばらしい岩壁や岩場があることは、別に不思議なことではない。日本では今、岩登りに挑戦しようとする人たちが増え、ロッククライミングの人気が上昇している。
ロッククライミングは岩壁の頂上まで登ることを目的としている。自然状況や、みずからの体力を的確に把握することが必要なスポーツであり、高度な技術と強靱な肉体が要求される。クライマー(ロッククライミングを行う人)は、バランス感覚と敏捷性を最大限に発揮しなければならない。上半身の筋肉をバランスよく鍛え上げることができてはじめて、ロッククライミングを存分に楽しめるようになる。
しかしながら大部分のクライマーにとって、このスポーツの真の楽しみは、登攀ルートを発見する精神的な行為にある。ロッククライミングは非常に危険なスポーツでもあり、安全確保や登攀技術、使用する道具などについての豊富な知識が必要となる。
日本では、北海道、沖縄、長野、広島など、多くの県でロッククライミングを楽しむことができる。ただし、東京で暮らしている都市生活者にとっては、都会から脱出して定期的に地方に出かけることは、それほど簡単なことではない。そこで登場するのが、屋内で楽しむインドア・ロッククライミングである。
インドア・ロッククライミングは、季節や天候に左右されずに楽しめる。また、管理された環境のもとで行うために、安全性も高い。そのため、アウトドア・ロッククライミングの代替スポーツとしてだけではなく、競技として楽しまれるようになっている。
インドア・ロッククライミングは、場所的な問題や安全面での手軽さに加えて、アウトドア・ロッククライミングとは違って、環境を破壊したり聖地を汚したりすることなく楽しめる。
屋内で行うロッククライミングは、広い空間に人工壁を設置して行う。通常は、合板を鉄筋で補強して壁をつくり、その表面を岩肌のように加工することで、屋外でのロッククライミング環境を再現する。
このほかにも、グラスファイバーを岩のような形に加工したものや、鉄やアルミニウムをつかったもの、花こう岩をつなぎ合わせたものなど、さまざまなタイプの人工壁がある。
大部分のクライミングジム(※1)では、形も大きさもさまざまな樹脂製のホールド(人工の岩)を採用している。それらが木製の垂直の壁や、その壁から水平方向にのばされた屋根状の構造物に取り付けられている(実際の岩場のオーバーハング、アンダーハング、クラックなどを再現している)(※2)。ひとつひとつのホールドは、簡単につかめる大きさのものから、あきれるほど小さなものものまで大小さまざまであり、壁の表面は出っ張ったり引っ込んだり凹凸がつけられている。また、壁自体に傾斜がつけられていて、初心者にとっては登るのがなかなか難しい。
ホールドには難易度に応じて色がつけられている (攀ルートを設定する「ルート・セッター」と呼ばれる専門家によって設計されている)。クライマーは、これらの色のついたホールドだけを握ることが許される。足は壁のどこにでもついてよい。初心者にとってはこの壁を登るのはなかなか難しいものの、保護用のパッドで十分な安全対策がとられており、ロッククライミングへの入り口として最適な環境が整えられている。
ロッククライミングというのは、一般的には巨大な岸壁を登ることを意味しているが、最近は「ボルダリング」(※3)も人気がある。ボルダリングというのは、ロッククライミングの基本中の基本ともいえるもので

ので、クライミングの練習としても行われる。ボルダリングでは連続した5~6回の動作で岩を登る。地面から近いところを登るので、ロープなしで行うことができる。そのため危険性も低い。
個人的には中野にある「J&S中野」でボルダリングを行っている。はじめて登るときには信じられないほど難しく感じられ、壁の傾斜にも恐怖感を覚えるものの、実際にやってみると挑戦する気持ちが芽生えてくる。利用料金は1500円で、初回登録料が500円かかるが、スポーツジムに通うよりも安く、トレッドミルで走るよりもずっと刺激的で気持ちがよい。ボルダリングを行うと、おのずと腕の筋肉全体を意識するようになる。同時に、いかに自分の筋肉が弱いかを自覚するようになる。
必要なものはすべてレンタルで借りられる。床にはパッドが敷かれ、スタッフは非常に親切だ。中野以外では、渋谷のキャット・ストリートから少し入ったところにあるボルダリング・スタジオ「PEKI PEKI」がおすすめだ。ウェブサイト(http://www.pekipeki.jp)をアクセスすれば、詳しい情報が得られる。
西日本では、大阪にある「シティロックジム」がおすすめだ。同ジムによると、日本で最初のインドア・ロッククライミングのジムだという(http://www.cityrockgym.com/English_facilities.html)。
インドア・ロッククライミングのジムは、スポーツジムの代わりとしてもってこいの場所だといえる。実際にやってみれば、すぐに登れるようになって、より難易度の高い壁に挑戦したくなるにちがいない。

訳注:
(※1:クライミングジム)クライミングを楽しめるよう、クライミングウォール(人工壁)を設置したスポーツ施設のこと
(※2:オーバーハング、アンダーハング、クラック)「オーバーハング」は壁の傾斜が頭上にひさし状に覆いかぶさっている部分。「アンダーハング」はその逆。「クラック」は岩の割れ目
(※3:ボルダリング)2~4mぐらいの高さの壁、ないしは岩を、ロープをつけずに登るクライミング

Story by Manami Okazaki
J SELECT Magazine, January 2010 掲載
【訳: 関根光宏】