柴又: 日本一有名なテキ屋の地元

東京の北東に位置する柴又ほど、かの有名な「フーテンの寅」さんを生み出す土壌がある場所は、東京の他のどの地域を探してもないであろう。東京都民の目からすると、労働者が多く住む東京東部の足立区、墨田区、江戸川区、荒川区などが下町であり、柴又は忘れられがちである。
しかし、この柴又の地で、日本で最も有名な映画シリーズが生まれた。実際、映画の主人公を演じた渥美清の人気は絶大で、彼の死後も、映画の舞台となった柴又を訪れるファンが後を絶たない。
京成金町線の柴又駅の前には、渋谷駅の前にあるハチ公像と同様に、有名な寅さんの銅像があり、多くの人を惹きつけてやまない。1960年から1990年半ばまでの間で、渥美清は49本の映画に出演した。最初の「寅さん」映画『男はつらいよ』の登場は1969年8月で、その後にリリースされた48本の映画も、『男はつらいよ』という同じ題名で継続された。1995年12月、シリーズ最後となった「寅さん」映画『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』(*)が公開された。
渥美清は、その役者名よりも、ファンから映画の中の「寅さん」の名称で呼ばれることが多かった。渥美清の本名は田所康雄で、1928年の春生まれだ。
長年旅を続ける寅さんは、国内であろうと海外であろうとどこへ旅をしていても、必ず柴又の家族でやっている団子屋に予告なしに戻ってくる。今日においても、映画の舞台になっている団子屋は、観光客や地元の人々によって人気の土産物屋である。
物語にはパターンがあり、寅さんと共演するヒロインは、いつも寅さんの人柄に惚れてしまう。寅さんの後を東京まで追うが、いつも必ず何がしかのトラブルが起こる。映画の最後で、女性に自分の思いを打ち明けるのであるが、それが誤解であったことがわかり、いつも失敗に終わる。寅さんは失意のうちにまた一人旅に出る。そこで、映画は終わる。
寅さんの故郷としてファンの間でも有名な柴又であるが、他にも見どころはたくさんある。
かつて、地勢学的に海の底であったこの地域にとって、歴史的に有名な寺院、業平山東泉寺南蔵院は、京成金町駅から徒歩15分程の距離にある。この寺院は江戸時代に建立された、しばられ地蔵で有名である。初詣には、東京中から仏様の加護を求めてたくさんの人で賑わう。駅から寺院への道は、日本の同じような参道と違って、少しばかり長い。道なりに、昔からある飲食店が軽食や飲み物を提供している。中には、地元に古くから愛されているラムネや夏の風物詩であるかき氷(好みのシロップをかけて)を出すお店や駄菓子屋もあり、寺への道のりは、楽しい散歩道となるに違いない。
仏教の大宗派には小さな分派があり、建物の間や地域一帯に小さな寺院を持つ。線香の香りを楽しみながら、散歩を楽しむことができる。禅宗は、この地域に分布する宗派の一派で、初心者が修養できる施設が近くに一つは存在する。
禅宗にあまり興味が持てないならば、ここ一帯を散歩し、東京の古き良き時代の空気を吸ってみるのも良いであろう。スーツケースを持ち、くたびれたスーツに身を包んだ寅さんが佇む駅を出発地とし、そしてまた戻ってくる徒歩の旅は良いものだ。
*渥美清は、最後の「寅さん」シリーズの映画が公開される一年前に、68歳で死去した。

Story by Mark Buckton
J SELECT Magazine, February 2010 掲載
【訳: 青木真由子】