ほろ酔い気分のクリスマス

マルド・ワインを作って楽しいクリスマスを迎えよう

今年もクリスマスの季節がやってきた。(家族と一緒に過ごし、プレゼントを贈りあったり、サンタが「実在する」ことを娘に信じ込ませたりするような、昔ながらの過ごし方は別として)、マルド・ワイン(ホット・ワイン)を飲みながらクリスマスを祝うのが、なによりも楽しく過ごす方法だ。

マルド・ワインには長い歴史がある。14世紀(あるいはおそらくもっと古い時代)から、マルド・ワインはクリスマスの飲み物として欠かせないものだった。ワイン(ほとんどの場合赤ワインが使われるが、必ずしも赤でなくてもよい)を温め、フルーツやスパイスで香りを付けたり、砂糖を加えたりするのが最も簡単な作り方だ。10の国があれば、マルド・ワインの作り方も10種類ある。しかしここでは、最も一般的なレシピや、少し変わったレシピをいくつか紹介することにしよう。どれも家庭で簡単に楽しむことができる。本誌の出版元がフェイスブックに開設しているページでは、クリスマス写真の投稿を歓迎している。こちらもぜひ試してみてほしい(私が撮影した拙い写真も閲覧できる)。

以下に紹介するレシピは、いずれも分量には触れていない。マルド・ワインは自分の好みに合わせて味を調節するのがベストだからだ。使用するワインも好みのものでよい。今回は、味も値段も大きく異なる日本産のワインを使ってみた。

最初に紹介する三つのワインは、すべて赤ワインであり、どれもマルド・ワインづくりに向いている。三つのなかで最も安い「メルシャン・ボン・ルージュ」は、1本590円で売られている。メルシャンは日本でワインを販売してきた長い歴史があり、安価で質のよいワインを作ることを誇りとしている。実際にメルシャンのワインは、JALのファースト・クラスで乗客に提供された初の国産ワインだった。ボン・ルージュは、今まで飲んだワインのなかで最高のワインとはいえないだろうが、非常に安く、どこでも入手できる(スーパーマーケットだけでなく、コンビニエンス・ストアにもあるはずだ)。甘口のワインでもあり、マルド・ワインに最適なワインの一つだといえる。

もう少し値段が高いワインとしては、北海道ワイン(株)が醸造している「おたるアムレンシス」がある。北海道ワインによると、日本で最も北に位置する北海道は、ヨーロッパ系の品種のブドウを栽培するのに最適な気候だという。このため北海道ワインは、ヨーロッパから輸入されたワインと比べると数分の一の値段で、確かな味のワインを提供している。750ミリリットルのボトル・ワインは、たいていの小売店で約980円で購入できる。北海道ワインは工場見学の受け入れにも熱心で、ガイド付きの見学会を定期的に開催している。

最後に紹介するサントリーの「登美の丘(とみのおか)」は、かなりおすすめのワインだ。サントリーは高品質のビールや受賞歴のあるウイスキーの醸造で有名だが、創業者の鳥井信治郎がサントリーの土台を築きあげたのは、1907年に発売した「赤玉ポートワイン」によってだった(現在の商品名は「赤玉スイートワイン」)。サントリーは現在もワインの醸造を続けており、世界市場で急速に競争力を発揮しつつある。登美の丘はサントリーのワインのなかでも比較的上質のワインに属する。しかし、その値段は3833円と手ごろだ。なかには、上質のワインに果物やスパイスを混ぜるなどというのはけしからん、と思う人も大勢いるかもしれない。同様に、手持ちのすてきなワイングラスにマルド・ワインを注ぐようなことはしたくない、と思う人もいるかもしれない。

どのワインやレシピで作るにしても、かならず注意すべきことが一つある――温度に気を付けることだ。ワインの温度が摂氏74度まで上がると、アルコールが蒸発しはじめる。温度計がないと正確な温度を知るのは難しいかもしれないが、経験上、蒸気が出ている状態であれば、まだ大丈夫だ。しかしシューシューと音が立っているようなら(あるいはもっと悪いのは、沸騰してしまった場合は)、温度が上がりすぎている。ワインを温めるときは、ゆっくりと火を入れることが肝要だ。アルコールを蒸発させないように気を付けながら、混ぜ合わせた材料の風味をゆっくりとワインに溶け込ませる。低温で45分間ほど温めたら、ストレーナーで濾し、最後に好みのものをあしらう。

マルド・ワインの起源はドイツだと思っている人が多い。マルド・ワインはドイツでは「グリューヴァイン」と呼ばれ、クリスマス市(ヴァイナハツ・マルクト)で売られている。この市は、待降節(クリスマス前の4週間あまり)の期間中に開かれる。記録によると、クリスマス市でグリューヴァインが売られるようになったのは、ドイツ東部の都市バウツェンが最初で、1384年までさかのぼることができる。ここで紹介するドイツ流のレシピは、おそらく最も伝統的なもので、なおかつおいしく作れるレシピだ。材料も比較的簡単に手に入れることができる。まず、赤ワインをシナモン・スティック、バニラ・ビーンズ、クローブ、スライスしたオレンジ、砂糖と一緒に温める。温まったら濾してから飲む。ただし、オレンジとシナモン・スティックは、飾りのためにそのまま残しておく場合が多い。アルコール分を高くしたいときは、ラム酒(できればダーク・ラム)を加える。ドイツではこれを「ミット・シュス」と呼んでいる。

マルド・ワインの北欧版である「グレッグ」は、シナモン、クローブ、生のオレンジ、砂糖と一緒にワインを温めるという点で、グリューヴァインと非常によく似ている。しかし、グレッグの場合、カルダモンをさやごと入れることがある(ワイン1本に対して約10個)。温めたワインを濾してからグラスに注ぐとき、グラスの底にあらかじめ砂糖、アーモンド、レーズンを入れておくと、さらにおいしくなる。グリューヴァインと同じく、アルコール度数を高めるためにあとから酒を足すこともあるが、グレッグの場合はラム酒ではなく、温めたブランデーを加えることが多い。

モルドバ共和国では、マルド・ワインは「イズヴァール」として知られ、はちみつと黒コショウを使って作る。読者のなかには、赤ワインが好きでない人もいるだろう。ルーマニアでは「ヴィン・フィエルト」を作るときにコショウを入れるが、白ワインを使うことが多い。「グレイス甲州」という山梨県産のおいしい白ワインがある。1923年創業のワイナリーが、昔からの方法でブドウを育て、醸造をおこなっている。その結果、環境にやさしい製品となっている。値段も手ごろで、小売店での販売価格は2000円前後だ。

しかし、なかにはワインそのものが苦手だという人もいるだろう。そんな人には、臨機の才があるドイツ人が考え出した「ワッセイル」というすばらしい飲み物がある。かつてはエールやミード(はちみつ酒)から作られていたが、現在ではアップル・サイダーを使うのが一般的だ。ワッセイルを作るには、サイダーに砂糖とはちみつを混ぜ、溶けるまで火にかける。そして、クローブを刺したオレンジと、さいの目に切ったリンゴを加える。さらに、ショウガ、ナツメグ、砕いたシナモン・スティックを加える。しっかりと風味を付けるためには、2時間以上火を入れた方がよい。しかしここでも、サイダーが沸騰してしまわないようにすることが重要だ。

思い切ってアイスクリーム・サンデーよりもカロリーの高い飲み物に挑戦してみようと思う人がいたら、「エッグノッグ」を試してみるのがよいだろう。アメリカで非常に人気の高い飲み物だが、発祥の地はイギリスである。言い伝えによると、17世紀にイースト・アングリア(イングランド東部地方)で作られるようになったとされている。18世紀のアメリカでは、輸入されるブランデーとワインに重い税金がかけられていた。一方、カリブ諸島から入ってくるラム酒は比較的安価だった。当時、アメリカでは乳製品が豊富に生産されており、エッグノッグもアメリカ流に改良されて、手ごろな飲み物として人気となった。

しかしここでは、伝統的な作り方を紹介しよう。用意するのは、卵12個、牛乳6カップ、生クリーム(濃厚なもの)2カップ、砂糖1カップ、ウイスキーあるいはブランデー(分量は好みに応じて加減する。このレシピは8人分のレシピなので、ウイスキーなら2カップ、ブランデーなら1カップもあれば十分だ)。

はじめに、卵の黄身と砂糖を、バターのような色になるまでよくかき混ぜる。酒をゆっくりと加え、最低でも6時間、冷蔵庫で寝かせる。飲む30分前に冷蔵庫から出して、牛乳を加える。ボールを二つ用意し、片方のボールで卵の白身を泡立て、もう一方のボールで生クリームをホイップする。両方とも角がピンと立つくらいまで泡立てたら、すべてを混ぜ合わせる。最後に好みに応じてナツメグ・パウダーを振りかければ完成だ。作るのは少し面倒かもしれないが、飲み物としてもデザートとしても楽しむことができる。

取材・文: Adam Miller
From J SELECT Magazine, December 2010
【訳: 関根光宏】