グリーンマイル

環境に配慮した車を探す

キャロル・ホイ

東京の公共交通機関はとても便利なので車は必要ない、とよく言われる。しかしそのように言うのは、車の運転をしない人たちだ。東京で自家用車をもっていることの利点は、はかりしれないものがある。どこかに出かける際に電車の乗り換えが必要なときは、駐車料金を計算に入れたとしても、車で出かけたほうが安く済む場合が多い。目的地が何か所かあるとき――とくに子連れの場合や重い荷物をもっている場合――は、車で出かけたほうが、はるかに楽に移動できる。週末には、公共交通機関では行けないような行楽地に出かけることもできる。しかし、ほとんど毎日のように車に乗っていると、現在所有しているトヨタのミニバンよりも燃費のよい車が欲しいと心から思う。いわゆるエコフレンドリー(環境に配慮した)な自動車は種類が多く、素人にはわかりにくい。そこで今回は「誰にでもわかる日本のエコカー」をテーマに記事を書いてみることにした。

エコカーとは?

「エコカー」とは、「エコロジカリー・フレンドリー・カー(環境に配慮した車)」を省略した呼び名だが、その意味はさまざまだ。日本政府は9月まで、古い車の所有者が新型で低燃費の対象車種(必ずしも代替燃料自動車である必要はない)に乗り換えた場合に、大幅な減税措置を適用し、補助金を支給する制度を実施していた。有害なガスの排出を減らそうという目的は確かにすばらしいが、金銭面での魅力はそれ以上だと言える。成功裏に終わった減税・補助金制度は、景気刺激策としても有効だった。補助金の期間が終了したにもかかわらず、不安定なガソリン価格によって、燃費のよい車の人気は非常に高い。

王者プリウス

トヨタのプリウスは、過去にブレーキ・システムの不具合や、批判的な報道があったにもかかわらず、環境に配慮した車として世界標準車の地位を保っている。プリウスに搭載されたコンピュータが、電気を使うとき(渋滞の場合)、ガソリンを使うとき(坂を登る場合)、両者を併用するとき(高速道路での走行時)を判断する。ハイブリッド技術のおかげで、プリウスの燃費はガソリン1リットル当たり平均38キロメートルとなっており、燃料費を約40パーセント削減することができる。有毒なガスの排出量も少ない。プリウスの場合、電気自動車のように走行範囲が限られることもなく、代替輸送燃料の補給ステーションを探す煩わしさもない。

プリウスの人気の秘密は、その万能性にある。流線型の未来的なデザインを採用し、各種の機能を満載したプリウスGは、本革シート付きで価格が330万円の高級車だ。じっさいの話、BMWやアウディといった高級ヨーロッパ車のオーナーだった人々が、プリウスに乗り換えた例を知っている。独自のハイブリッド技術は男性ドライバーの心をとらえ、アッパーミドル階層の主婦たちでさえ、ガソリンが節約できる点を絶賛している。プリウスに乗れば、環境意識の高さを周囲に自慢することができると同時に、高級車のドライビングも楽しめる。

とはいえ、プリウスにはかなり廉価なモデルもある。ベーシックなプリウスSは220万円で購入可能だ。価格が他のコンパクトカーと同程度で、燃料も節約できるとくれば、プリウスがベストセラーになるのはなんら不思議ではない。7人の子供とサッカー用具を乗せて移動するような機会が多いサッカーママであることを考慮に入れなければ、ここ10年ほどのあいだでは、プリウスはわたしの一番のお気に入りの車だ。

時代後れになった天然ガス車

プリウスが世界でもっとも売れているハイブリッドカーである一方で、多くの開発途上国の路上で排出されているCNG(圧縮天然ガス)自動車の排気ガスの総量を考えると、プリウスの台数はまだまだ少ない。CNGはメタンガスとその他の生物由来の物質から構成されており、液化石油ガスに比べて安価でクリーンな代替燃料であると言える。2009年現在、全世界で1120万台の天然ガス自動車が走っている。その多くは、CNGがガソリンの約3分の1の値段で入手できるブラジルやインドのような新興工業国で使われている。CNG技術の主な利点は、通常のガソリン車をCNGで走るように改造できる点だ。

日本では1990年代の初めに数多くのCNG(天然ガス)車が導入された。しかしながら、商用車を除いて、ほとんどのモデルはその後に廃止された。情報サービス「J-Reports’ Automotive Industries」によると、日本におけるCNG車の人気低迷の理由は、政府が水素燃料自動車を支援していることにある。すぐに利用可能な燃料としては、CNGのほうがクリーンな燃料であると専門家は指摘しているが、政府のNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、圧縮水素燃料電池の革新性に着目し、その技術を発展させることに力を入れているようだ。

クラリティ――滑らかな走りの水素自動車

水素を使った燃料電池とはどのようなものなのか? 水素燃料電池について学ぶために、ホンダが開催したワークショップに参加した筆者は、その魅力を学習した。有毒な排気ガスの代わりに水だけを排出する自動車というアイデアは、実にすばらしい。電気自動車とは違って、水素ベースの燃料電池を動力源として使うには、ごくわずかな電気しか必要ない。ホンダは現在、流線型の高級水素燃料電池自動車・クラリティの普及に努めている。乗り心地は今まで経験したことがないほどスムーズで、その点ではプリウスや電気自動車の上を行っている。

クラリティは現在、日本全国で開催されているワークショップでお披露目されている。南カリフォルニアでは、女優のジェイミー・リー・カーティスや、映画『アバター』のプロデューサーであるジョン・ランドーなど、選ばれたドライバーが、3年間の期間をもうけてクラリティの試乗をおこなっている。クラリティが高級顧客向けの車であることは間違いない。

ホンダが燃料電池技術にかかわっている理由の一つは、日常生活のあらゆる場面で水素エネルギーを利用できるようにするという壮大な計画をもっているからだ。ホンダはカリフォルニア州のトーランスに、実験的な試みとして「ホーム・エネルギー・ステーション」を開設した。水素燃料電池を使って家庭内での電源や給湯をまかなえるようにする実験だ。

主要な自動車メーカーのなかで、ホンダは燃料電池技術の将来性に賭けている唯一の企業というわけではない。電気とガソリンのハイブリッドカーにおいて成功を収めたにもかかわらず、トヨタは水素をエネルギーにしたハイブリッド車「トヨタFCHV」の試作車を次のようなキャッチフレーズで宣伝している。「燃料補給をせずに東京から大阪まで」。しかし、デザインという点では、2008年の東京モーターショーに出展した未来的な水素燃料電池自動車「Fine-X(ファイン・エックス)」が、トヨタの至宝と言える。

小さな車という実用的な選択肢

ハイブリッド・エネルギー車と比べると、物珍しさという点ではインパクトに劣るが、経済的にもっとも実用的で、環境への負荷も小さい選択は、軽自動車に乗ることだ。「軽」とは文字通り「軽いこと」を意味しており、小さい規格の自動車を指している。法律によってエンジンは三気筒、排気量は660cc以下と定められている。そのため、大型のオートバイよりも非力になっている(出力を上げるためにターボチャージャーを付けることができる)。100万円前後で購入できて、燃費もすばらしい軽自動車が存在することが、日本で電気自動車の人気が高まらない理由だと思われる。軽自動車は初心者でも運転しやすく、駐車も楽にできる。

 

さらに経済的な選択肢

わたし自身の話をすると、トヨタのミニバンであるエスティマ・ハイブリッドが、実用性を満たす唯一の代替燃料車ということになる。ところが、ガソリン専用車(340万円)であっても予算をオーバーしてしまうため、480万円のハイブリッド・モデルどころの話ではない。自動車メーカーがそれなりの大きさの車を300万円以下で売り出してくれない限り、環境に配慮した車を購入する余裕はない。

Story by Carol Hui
From J SELECT Magazine, November 2010
【訳: 関根光宏】