ピラミッドに住む夢

東京は世界で最も込み合った都市の一つであり、また利用可能な土地面積が最小である都市の一つである。この巨大都市は未来に向けてより発展していく事が出来るのであろうか。清水建設によって構想された都市発展に向けての革新的な解決方法についての番組を、最近ディスカバリーチャンネルが放映した。古代エジプトに解決方法を見出したこの構想が実現するためには、先端の技術が必要となるであろう。

東京の圧搾

東京都で行われた研究によると、東京の人口は2002年以来89,455人ずつ増加し、今年1月1日の時点で、12,378,974人と過去最大に達した。東京の人口は日本総人口の約10%を占め、47都道府県内で最大である。しかしながら興味深い事に、東京の土地面積はわずか2,187平方キロメートル、日本国土総面積の0.6%と、47都道府県の中で3番目に小さい。

特に東京23区は、1平方キロメートル当りに5,613人が居住し、東京全体の人口密度を高め、1平方キロメートル当りの居住人口を世界最大とする要因である。推定によると、2010年には東京の日中の人口は29,000,000人という驚異的な数となり、人口の急上昇と共に、東京の環境悪化は目に見えている。反汚染運動として実施された、工業用ガソリン車両の燃料タイプ規制と排気ガス排出基準の設定はかなりの成功を治め、一酸化炭素と二酸化硫黄による環境汚染は多少安定された。しかしながら不法投棄は増加しており、廃棄物から発せられる有毒な汚染物質は環境に対して悪影響を与えている。

東京が都市化するにつれて、緑地率は減少している。現在、緑地割合は監視面積全体の28%である。しかし、定期的な土地開発、さらにその建築現場からでた土を干拓に使う事により、永続的に東京の地盤が浸食され、地盤沈下が進行している。さらヒートアイランドと呼ばれる現象を引き起こす要因ともなっている。ヒートアイランド現象は、東京の気温を上昇させ、都市のエネルギー消費を増大させ、それに伴い自然資源、水資源の減少を引き起こしている。また東京はほとんどの地面がアスファルト舗装されているため、日差しが強い時は放射熱の跳ね返りにより更に気温が上昇してしまう。東京は、急激な都市人口の増加にうまく適応できるよう、自然と環境の調和を計りながら、丸の内、汐留、六本木、品川などの土地開発を近年実施した。しかし、それを上回る規模の都市構造の基盤を開発する事が急務となっている。

巨大都市構想

ピラミッド型巨大都市を築く技術は、清水建設によって1990年代初頭に構想された。最近になりディスカバリーチャンネルがこの“ピラミッド型空中立体都市”について放映した事から、この都市開発に対する関心が再び沸き上がっている。清水建設のコンセプトは、前述の環境問題をかなり考慮して作られたものであり、もしこの構想が東京湾で実現すれば、今迄で最大級の都市開発プロジェクトとなるであろう。

ピラミッド型の三次元都市は、ギザのピラミッドの12倍以上の高さを有し、外枠のピラミッドの中に小さなピラミッドが55個組み立てられているデザインになっている。その姿は東京湾上の浮かぶ空中都市の様に見えるであろう。この都市には居住施設、オフイス、商業施設、レジャー、文化施設などが設けられ、いずれも世界初の革新的な技術を駆使して設計されている。

全ての各施設、各区域の建設には最新式の作業用ロボットを使用する。人間型ロボットが海底から基盤となる支柱を築き、全体の枠組みを建設していく。建設行程における自動操作は、要所に同じ部材を使う事により更に容易になるであろう。理論上では、ピラミッド型都市は自分で自分自身を築き上げる事の出来る都市と言えるであろう。ピラミッドの骨格フレーム内にある荘厳な建物内で、約100万人が生活し、仕事をし、そして余暇を楽しむ事が出来るようになるだろう。5,000ヘクタールは約70万人の住宅施設として、2,400ヘクタールは約80万人が働けるオフイス、商業施設として、残りの1,400ヘクタールは、研究、ホテルおよびレジャー設立のために使用されるであろう。

深刻な問題

この巨大な建築物は水上に位置し、都市の地上基礎部分は一辺が2800メートルで、36本の巨大な円柱の桟橋によって支えられている。従来の工学技術の知識の観点から見ると、このような建築物は重さに耐えられず崩壊してしまうと思われるかもしれない。ピラミッド型巨大都市の基礎構造は、何百もの相互に連結する一辺350メートルの八面体ユニットから構成される。これらのユニットは空洞の柱を使い、チューブインチューブ構造による水平シャフトと斜めシャフトの組み合わせにより、三次元のスペースを無限大に構築する事が出来る。直径10メートル、長さ350メートルの水平シャフトには配電、通信網、通勤や流通の為の通路を始め、2種の新交通システムと展望窓が配置してある。一方、直径16メートル、長さ350メートルの斜めシャフトには、配管、配電網、エレベーター型の交通システム2基等の流通網が配置してある。各々の八面体ユニットが互いに交差する55箇所には、球状の結節点が使われている。更に、幅50メートルのクリスタル製の球状の結節点は、通勤者の乗換駅となり、居住者、通勤者、来客はそこから素晴らしいベイエリアのパノラマ展望を満喫する事が出来るだろう。しかしながらこのピラミッド型巨大都市は、工学技術における条件として、内部の高層建築と多くの輸送ネットワークを支えるのに十分な強度が必要であり、かつ、東京湾に埋められている36本の桟橋だけで耐えられるよう、非常に軽量でなくてはならない。

巨大都市の重量問題に対して考えられる解決策として、主となる建築資材に炭素繊維を導入する事が上げられる。1991年に筑波NEC研究所の飯島氏は、電子顕微鏡を用い、炭素繊維の耐重性についての研究を行った。炭素繊維は、直径わずか数ナノメーター(1ナノメターは10億分の1メートル)の筒状の炭素原子から構成されている。炭素繊維はダイヤモンドと同じ位の強度があり、耐久性がある。また炭素繊維の伸張力は、今日利用可能な合金の25倍にもなる。理想的な繊維として継ぎ目のない円柱を作るためには、六角形した炭素原子が好ましいとされている。炭素繊維は、優れた電子特性、機械的、耐久的特性を備えた他に類を見ない物質である。当初、研究所は、炭素繊維の持つ優れた電子特性に興味を持った。そして炭素物質の驚くべき耐久性を含む他の有用な特性を発見し、建築に用いる事に注目し始めた。巨大都市を支える巨大な支柱、結節点、塔、桟橋は炭素繊維で作られる。その重量は、従来の建築資材の100分の1の軽さなのである。

より自動車のない都市

清水建設によって描かれる都市における交通手段は、自動車、バス、トラック等ではなく、環境に優しい物である。人々が迅速に移動出来るように、都市内には環境を汚染しないコンピューター制御の輸送機関が、網の目のように張り巡らされる。このシステムは、歩道沿いに一定の間隔で設置される小型軽量キャビンを直線誘導型モーターで回転させ駆動している。26本のPRTラインが、時速40キロメートル以内で都市の至る所を走っている。PRTは1分間隔で都市のアクセスポイントを移動し、1時間で19万人を様々な場所に移動させる事が出来る。

居住者、通勤者や来客は、ピラミッド型巨大都市内に張り巡らされた動く歩道を使い、経由する結節点で乗り換えて、都市内の隅々まで移動する事が出来る。この動く歩道は従来の物とは違い、歩く速さから軽いジョギング位の速さまで、速度を上げる事も出来る。通勤する人達が仕事のアポイントに間に合うように(風で髪が乱れる程、急いでいなければだが)、水平な歩道を歩く人達を追い越せるよう、縦に動く立体的な乗り物があり、1キロの距離を瞬時に急速移動する事も出来る。64本の対角線の軸により、CCT(連続的循環輸送)と呼ばれる代替交通網を利用する事が出来る。このシステムは通常のエレベーター(昇降機)とほぼ同じであるが、ただ垂直に移動するのではなく、対角線の勾配に沿って斜め向きにも相互移動が可能だ。この「インクリネーター(斜め昇降機)」は最大50人まで収容でき、時速約40キロメートルで移動する事が出来る。他の輸送と同様に商用運搬も、垂直にも水平にも運搬出来るCCTシステムにより都市の至る所に配送が出来る。このシステムは全て自動運搬システムが導入されており、経由される結節点でも人間の手を使わずに、目的地まで容易に商品を運搬する事が出来るのだ。

自活できる首都

清水建設は、このピラミッド型巨大都市を東京の電力送電網に接続する事により、前代未聞の国家規模の停電が起こった事を想定し、自ら自然環境を利用し発電出来る都市基盤を構想した。清水建設は、壮大な規模のこの都市プロジェクトが生存していくためには、自らエネルギーを生み出す他にないと考えた。世界中の科学者達は、藻類が生み出す水素から作る莫大なエネルギーが使えるか、そして他にも多くの提案をしてきた。しかし、燃料電池等、環境問題を引き起こさないエネルギーを使う事が最も有力な解決策であろう。

世界の海岸線に打ち寄せる波の力を合計は、2~300万メガワットと見積もられている。条件の良い場所では1マイルあたり平均65メガワットの電力を得る事が出来る。このピラミッド型都市は東京湾に位置するので、波を電力に変える装置を取り付けるべきであろう。海中に装置を出し入れして人口の波を作り出し、その波から電力を得る事が可能となる。これらの装置はボートのような物に乗せるか、または都市を支える36の桟橋に取り付ける事になる。

自然発生する波からも発電が出来るように、他の電力製造装置もシャフト内に取り付けられる。これらの装置は、シャフト先端から出る風力を利用して海水を出し入れし波を起こし、波から電力を作り出し、また都市内の数カ所に水路を引き、貯水地に汲み上げた水を流し込む。そして貯水池から流れ出た水により、通常の水力発電の要領で電力を作り出す。太陽光熱からも電力を得るために、ピラミッドの外面の骨格全体を光起電力フィルムで覆う事も出来るかもしれない。巨大なクリスタルガラスで覆われた結節点は、更に自然光を集める役割を果たす。また、光ファイバーを通して光を集める事により、都市内のあらゆるところで日光浴を楽しむ事が出来る。そして排水は生物学的な科学反応装置により再利用可能となり、廃棄物は焼却され、その熱は電力として再利用されるのだ。

清水建設のピラミッド型空中立体都市構想は、今すぐ実現可能ではない。しかしながら、多くの問題を抱える東京と建築業界に対して、革新的なデザイン、建築様式、エネルギー製造装置など魅力的な構想を提案してくれた。清水建設の藤森博士はピラミッド型空中立体都市構想の番組の中で、「我々はこの構想をすぐに実現できるとは思っていない。これは夢みたいなものかもしれない。しかし夢を実現させたいと思う事で、科学技術が進歩していくのだ。」と語ってくれた。

Story by Jonathan Day

From J SELECT Magazine, June 2004

(日本語訳:山田和歌子。一部、原文と異なる表現があります。)