カッティング・ルーズ

今月、2005-06年の秋冬コレクションが一斉に東京のウィンドーを飾った。世界で活躍する有名デザイナー山本耀司の長女、山本里美に聞いた。

山本里美は、福岡に生まれ、文化服装学院卒業後、株式会社「ヨウジ・ヤマモト」に入社し、ワイズアトリエで2年間パタンナーとしての腕を磨き、1999年10月、新ブランド「Y’s  bis LIMI (ワイズ・ビス・リミ)」のデザイナーに就任し、2000-2001年の秋冬東京コレクションでデビューを果たす。2002-2003年、秋冬コレクションよりブランド名を「LIMI  feu (リミ・フゥ)」と改名した。父である山本耀司のブランド名 「ワイズ」を取り、フランス語で「火」を意味する「feu」を加えたのだそうだ。

父と同じくデザイナーという道を選んだのは何故だろうか。そして偉大な父の存在は、里美の人生や仕事にどのような影響を与えているのだろうか。

「デザイナーになったきっかけは、父が「ブランドを一つ持ってみないか。」と言ってくれたことです。全てにおいて、父の影響を受けていると思います。仕事では「ヨウジ・ヤマモト」の「ワイズ」というブランドで、パターンメイキングを学びました。」しかし何よりも洋服を愛している事が今の里美の活動の根本であろう。

有名な人物の娘として苦労したこと、また有難かったことについて聞いてみた。「良い事もあるし、悪い事もあり、本当にフィフティー・フィフティーですね。良いところは、ヨウジの娘だから仕事がやりやすい、また悪いところは「仕事ができて当たり前」という目でどうしても始めから見られる事です。」

「では、デザイナーという仕事の中で、何が一番好きな点で、何が嫌いな点ですか。」

「好きな点は、やはり自由に洋服が作れる事です。苦手な点は資金繰り。ワンシーズンを作るのにバジェットがあって、「この中でやらなきゃいけない。でもこれもやってみたい。」という葛藤があります。」ファッションビジネスにおいて、デザイナーは自分の作りたい物を表現しつつ、消費者の心をつかみ続ける為に、常に新しい感性への挑戦が求められている。「デザインをする時、どういうところが難しい事ですか。自分の勘を信じてデザインをしてきて大変に感じるところは何ですか。」という問いに「続けることが難しいです。」と答えた。

定期的に行われるコレクションのデザインをする時のインスピレーションや、作り続ける原動力はどこから来るのだろうか。

「例えばムービーなどのメディアを介したものには興味がなくて、そこからインスピレーションを受けることは全くなく、実際に自分が目にするもの、原宿や代官山で若い子たちが着ているファッションだったり、同じ職場で働いているスタッフやプレスの人達のファッションだったり、そういうものから影響を受けています。」

彼女のコレクションのデザインは一般的に「ルーズシルエット」と言われているが、自分自身で作った洋服をどのように感じているのだろう。

「ルーズスタイルは自分もとても好きで根本にあります。今の若い人達のファッションは女の子も男の子もルーズスタイルが多いですが、ルーズ過ぎていると感じています。今年のオータムウィンターのコレクションでは、とにかく良い生地を用い、良いパターンで、そのルーズスタイルを否定したかった。新しいものとか、きれいなものとか良いものを、ファッションが好きな若い女の子たちや男の子たちに提案したいです。今回はテーラードもいれてみようとか、テーラードのラペル襟先に凝ってみようとか、新しい提案を考えています。」

最近の若い世代を見ていると、似たような服を来ている人が目立つ。「流行物に弱く、自分に似合うかに似合わないかは関係なく、皆同じような物を買っているように感じる今の若者に何かアドバイスやメッセージはありますか。」

里美は次のように指摘する。「もう少し見る目を育てましょう。良いものは良い、悪いものは悪いっていう、自分で選んで決める事。人の真似をするのではなく、自分のスタイルは自分が一番分かっているはずだから、自分に合うスタイルを磨いていけばいいと思う。人の真似をする事はたぶん憧れから生まれると思いますが、そこにもう少し「自分」というアーティスティックを入れればいいでしょう。シャネルやサンローランなどのブランドショップで、日本人はバックなどの小物の売場ではよく見かけますが、肝心の洋服売場には足を運んでいなくて、これらのブランドが大きくなった基礎は洋服にあるのに、ブランドだけに踊らされているのはおかしいと思います。」

里美は2児の母でもある。2歳と1歳の子供を育てながら、育児と仕事のバランスは困難ではないのだろうか。「朝10時から夜の7時までは仕事をして、7時以降は育児に専念しています。子供を産んでからの方が、バランスをとりやすくなりました。フリーの時は仕事の事だけを考えてやっていましたから、頭でっかちでした。つまらないことでもすごく考えていました。家に帰っても。どんな時も休みの日でも、お風呂に入っている時も、仕事の事ばかりを考えていましたね。今は子供がいるので、帰宅すると仕事から頭を切り替える事が出来ます。」自分が成功を治めている業界に、自分の子供も進んでいく事を望む親は多いであろう。彼女もデザインや服飾業界に進んで欲しいと願っているのか尋ねてみた。

「彼らがそう望むならば応援します。父ともこの話をしていたのですよ。」と笑った。

子育てについて「仕事と同じくらい、もしかしたら育児は仕事よりも難しいですね。自分もまだ1人前ではないのに、人を育てて行くのだから。最近、テロや災害があって、今まで一人のときは、ニュースを見てもけっこう他人事に思えていた。でも子供が生まれてから、彼女と彼が大きくなったときに、日本に未来があるのか、世界の未来があるのかと、すごく考えるようになりました。とにかく、今は親がしっかりしないとだめな時代だなと。」

最後に今後の日本におけるコレクションについて聞いてみた。「東京コレクションはパリコレやロンドンコレクションに比べて小規模というイメージがありますが、それは何故だと思いますか。東京のデザイナーたちがどのようにすれば、東京コレクションの規模を大きく、重要性を高めることができると思いますか。」

「日本ではコレクションブランドやコレクションウィークを仕切り、リーダーシップを取れる人がいないと感じています。リーダーシップを取れる存在が出て来てほしい。東京コレクションはまだ海外からのバイヤーがあまり来ません。他の海外のコレクションよりは評価が薄いと感じます。でも何故私がその日本をベースに仕事をしているかというと、まず自分が日本人であるから。すごくシンプルな考え方で。「LIMI feu」といい私のブランドは立ち上げて6年が経ちますが、日本でのビジネスに成功しているとは思っていません。日本で成功しないブランドを海外に出してもやはり成功しません。今までに幾つかの日本のブランドが、パリやミラノに進出しましたが、名前を聞くのは1個か2個ですね。やはり厳しい世界だから。自分はもっと日本で「LIMI feu」というブランドをしっかりと築き上げて、ブランドイメージがきちんと定着したら、海外に行くかもしれませんが、今はまだ考えていません。海外のバイヤーの方に、是非コレクションを見に来て頂きたいです。」今後の活躍に注目したい。

Story by Elliott Samuels
J SELECT Magazine, September 2005掲載