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日本は乳児死亡率が世界でもっとも低く、出産するには理想的な国のように思える。だが、子どもを産むという行為には、医療上の問題だけでなく、個人の信念が大きく関わっている。もしもあなたが、出産にあたって日本式のやり方を受け入れることができるのであれば、充実した産後のケアが期待できる病院や施設が、日本国内にはたくさんある。

計画出産

われわれが生まれたとき、母親が病院に行って、どういうふうに子どもを産みたいかを書き記した「希望リスト」を産科医に手渡すなどということは、おそらくなかったはずだ。しかし最近は、子どもの産み方を自分たちで決めることができるようになってきている。多くのカップルにとって、自分たちが考えた「バースプラン(出産計画)」を主治医に受け入れてもらうことは、親になるにあたって欠かすことのできない要素となっている。
世界的に見ると、出産の際、仕事や社会活動に影響が出ないように、帝王切開によって計画的に出産することができるようなシステムを採用しているところもある。その一方で、自然なお産を望み、家族に囲まれながら自宅で出産することを選ぶ女性もいる。通常、陣痛を和らげるために硬膜外麻酔による鎮痛を行うかどうかの選択は、医師ではなく妊婦が行うことになっている。

文化の相違

もしも長期間にわたる詳細なバースプランを準備しているとしたら、日本ではさまざまな問題に直面することになるだろう。というのも、日本の医師の多くは、「すべきこと」を指示されることに慣れていないからだ。患者に状況を説明したり、相談したりすることなく、ものごとを決定する医師が多い。わたしの友人の一人が、最近、

しかし、なによりも愛育病院に感謝したいのは、日本でも屈指の新生児集中治療室(NICU)をもっていることだ。それによって、娘の命が救われたのである。
4週早く生まれてきた娘は、体重が3000グラムを少し超えていて、誕生直後は元気な赤ちゃんだと言われた。出産に要する時間が長かったので、母親であるわたしの負担を軽くするために、娘は一晩、新生児室に預けられた。ところが、誕生から17時間後、彼女の呼吸は一時的に止まってしまった。幸いなことに、娘の顔色が紫色に変色していることに気づいた看護師が、娘を軽くたたいてくれた。びっくりして娘は泣き出し、それによって深く呼吸をすることができようになったのである。もしもあのとき、娘がわたしと同室にいて、わたしがぐっすり眠っていたり、あるいは看護師が細心の注意を払って見ていてくれなかったりしたら、娘はいともかんたんに新生児無呼吸症候群の犠牲になっていたと思われる。
娘はすぐさま新生児集中治療室に送られ、4日間をその中で過ごした。その後わたしは、2週間以上にわたって、埼玉県や茨城県から妊婦が救急患者として送り込まれてくるのに遭遇した。未熟な赤ん坊が、医療の力によって奇跡的に元気になり、退院していく姿というのは、じつにすばらしい光景だった。

自然分娩のメッカ

どうしても自然分娩で出産したという場合も、自分たちのバースプランを実現するために、わざわざ日本以外の国に出かけて行く必要はない。日本の産院では、ソフロロジー法によるお産の教室を開いているところが多い。ソフロロジーは、コロンビア出身の医師が基礎をつくった心象形成法・呼吸法であり、出産にともなう痛みを無理なく軽減することができる。ソフロロジーは、自然分娩における最先端の理論だといえる。
医療に頼らない出産を望む場合も、日本にはそれが可能なところがある。わたしの友人は、英語が通じる「アクア・バースハウス」(東京都世田谷区)で二人の子どもを産んだ。代表助産師の山村節子さんは、開業後15年間で2,000人以上の分娩に関わった。夫の助けを借りながらお湯の中で出産する方法(水中出産)や、畳の産室で出産する方法などの中から、妊婦は自分で分娩方法を選ぶことができる。アクア・バースハウスでは、妻と夫だけでなく、子どもも一緒に出産に立ち会うことを推奨している。赤ん坊が生まれると、みんなで歓声を上げ、抱き合い、祝福の言葉がかけられる。アクア・バースハウスで出産した女性たちは、生き生きとした体験記を残している。医療機関との連携体制も確立されており、難産になった友人の一人は、すぐさま病院に送り込まれた。

出産費用

日本で出産した場合、どのくらい費用がかかるのかという点には、多くの人が関心をもっているにちがいない。国によっては、出産にかかる費用は健康保険でまかなわれるところもある。日本では、妊娠や出産は病気ではないという理由で、国民健康保険の適用外となっている。
現在、日本では、「子ども手当」を創設する法案が検討されている。また、国籍にかかわらず、日本の国民健康保険に加入(会社を通じて手続きするか、市区町村の役所で手続きを行う)していれば、35万円ほどの「出産育児一時金」が支給される(現在、一時金の増額が政府で検討されている。自治体によってはすでに増額しているところもある。住所地の自治体に問い合わせてみるとよい)。2009年4月からは、出産前に14回の検診(妊婦一般健康診査)を、国民健康保険で受診することができるようになった。
妊婦であるあなた(あるいは配偶者)が日本の健康保険に加入しているのであれば、子どもが国外で生まれたとしても、出産育児一時金の支給を受けることができる。もう一つ覚えておきたいのは、日本では、妊婦の希望による帝王切開はできないということだ。そのため、帝王切開は医療行為の一環となり、国民健康保険が適用されて、出産にかかる費用は自然分娩よりも少なくなる。
愛育病院での普通分娩にかかる費用は、約68万円。アクア・バースハウスでは、出産後の入院料込みで49万円
(水中出産の場合は追加費用4万円が必要)。規模の小さな産科医院や総合病院では、国の出産育児一時金の支給金額にあわせて、出産費用を35万円に抑えようとする傾向がある。
今日、出産方法の選択肢は非常に多様化している。自分なりに調べてみると、いろいろな方法が見つかるはずだ。友人のアドバイスに耳を傾けるよりも、実際に自分で医師の元に足を運び、自分のスタイルに合っているかどうか、直接話を聞いてみるのがおすすめだ。

Story by Carol Hui
J SELECT Magazine, MAY 2010 掲載
【訳: 関根光宏】