健やかに暮らす

最悪のシナリオを想定してみよう。日本で合法的に働いていて、民間の医療保険に加入しているとする。補償の範囲は最低限だが、そのぶん保険料は安い。2010年4月、就労ビザ(査証)を更新する時期がやってきた。すると、新たな在留管理制度の導入によって、二つの公的な健康保険制度のうちのどちらかに加入していることを証明する書類を提示しなければならなくなってしまった。さて、こうした場合、どうすればよいのだろうか。
まず理解しておく必要があるのは、今回の在留管理制度の変更は、新たな法律の制定によるものではないということだ。日本の法律では、日本在住者は国籍にかかわらず、公的医療保険である「社会保険」か「国民健康保険」のどちらかに加入するよう定められている。ところがそれは、今までは強制的なものではなかった。
では、今回、制度が改正されるのはなぜなのかと疑問に思う人もいるだろう。その答えは必ずしも明確ではない。今回の改正は、2007年1月に発表された
「規制改革推進のための3か年計画」という一連の政府計画のうちのごく一部にすぎない。発表された計画書には、「我が国の経済社会が直面する諸課題を克服なってはじめて、国民健康保険に加入しておけばよかったと後悔することになる。民間の医療保険は、若くて健康な外国人加入者に特有のニーズにこたえるものである、という論理からすると、健康上の問題が生じたときにはそのまま保険を継続するのが本来の姿だろう。教育の場合、子供をインターナショナル・スクールに通わせることを選択した場合には、日本の義務教育を「放棄」する旨の書類に親がサインをする必要がある。外国人が合法的に民間の医療保険に加入することを選択できるように法律が改正されるのであれば、あとになってその人たちが公的な健康保険に加入することは非常に難しくなることは間違いない。
日本に滞在する期間が短いことがあらかじめ決まっているのであれば、民間の医療保険に加入した方がよいのは明らかだ。それが公的に認められるようになれば、法的なあいまいさも解消できる。一方、日本で長期間暮らすことを決めたなら、公的な医療保険への加入を考えた方がよいだろう。

Story by Carol Hui
J SELECT Magazine, January 2010 掲載
【訳: 関根光宏】